私は学生の頃から、様々な仕事を頂いて、ほぼ毎年のように仙台でのコンサートに出演させて頂いてまいりました。その都度、仙台の色々な方との楽しい出会いが数限りなくありましたが、その交流をこの度「後援会」という形にして頂ける、ということは、驚きとともに大きな喜びです。
この二十数年間にわたって、仙台の友人たちは本当にいつも変わらない温かさで迎えてくださり、毎回のようにビールを片手に夜更けまで話し込んできました。その語らいはいつも私を、まだ初々しかった学生時代に引き戻し、芸術について、音楽について、宗教について、荒唐無稽ではあっても、そこには常に真実を求め続ける強い求心性がありました。その燃えるような純粋な思いが、私の仙台像を作っています。
私は今、バッハ・コレギウム・ジャパンを主宰して、バッハのカンタータを中心に演奏しています。バッハが、新しい千年紀を迎えるにあたって、「時を超える」という意味でもっとも相応しい作曲家であるとともに、来年が没後250年と言う記念すべき時* にあたっているのも、偶然を超えるものを感じます。カンタータの内容は、現代の私たちにも大いなる力を与えてくれます。人間が、日々様々な苦難と憂いに悩まされつづけるのは、18世紀も今も全く変わることがありません。そのような私たちを本当に深く慰めてくれるのは、もはや人の言葉ではありえないような気がします。
音楽はバッハの当時、超越的な神のことばを乗せて、それを正しく人の心の奥底に届ける働きを担っていました。これは声楽作品だけではなく、オルガン作品も、オーケストラ作品も、皆そのような価値観の中で生み出されたのです。ですから、音楽家が音楽をするのは、自分の能力を見せるためでもなく、人の賞賛を求めるためでもなく、ただ、聴く者も演奏する者も共に、その音楽によって深い慰めと力を得たいがためです。
今後、仙台でどのような演奏活動が可能であるか、まだはっきりはわかりませんが、許される限り毎年何らかの形の演奏会を持ち、仙台の方々との交流をさらに深いものとしていきたいと、心から願っております。そして、バッハのみならず、多くのすばらしい音楽を通して、その喜びを分かち合うことができれば、それに優る喜びはありません。
バッハ・コレギウム・ジャパン
音楽監督 鈴木 雅明
※この文面は、1999年9月「仙台鈴木雅明後援会」発足(後、「仙台バッハ・コレギウム倶楽部」に改称)時に、鈴木雅明氏より寄せられたメッセージを転載したものです。